魔術師と下僕
そして、朝を迎え、強烈な薬を飲んで二度寝し、再び目覚めると。
食卓には一人分の食事があった。瑞々しい色とりどりの野菜サラダ。きつね色のトースト。見事な半熟のハムエッグ。牛乳。
それらを眺めていると、男ーージオが、苛立ったように言う。
「突っ立ってないで食べてよ」
しかしすぐには動けないイリヤに、ジオはなおさら苛立ち、自分の髪を片手でぐしゃぐしゃして、あーもう! とやった。
「ここには僕と君の二人しかいない、そして僕は既に朝食を済ませている、じゃあこれは誰の分?」
「ご主人様の昼食ですか?」
「君の分!!」
ジオはもうじれったいとばかりにイリヤを半ば無理やり席に着かせる。
そして、面倒だから食べながら聞くようにと前置いて一方的に話し始めた。
「君がどこから来たか知らないけど、とりあえず君は当分僕が預かることにしたから。名前と年は?」
自分がイリヤという名前で年は十歳であることを辿々しく伝えると、ジオはもっと年下かと思った、と言った。
「ちゃんと食べなきゃ大きくならないからね。下僕が健康でないと僕が困るんだからーーそれから、ご主人様っていう呼び方は気に入らないな。僕はジオ、二度教えたんだから、忘れたら許さない」
「すみません、ご主じ……」
言われているそばから、だ。イリヤはやってしまった、という表情で口籠る。
「……まあいいや。呼びやすいように呼べば? 僕は寛大だからそのくらいは許してやってもいい」
はい、とイリヤは返事をして、黄身がたっぷり絡んだハムに視線を落とす。
「別に、無理してまで食べろとは言ってないからね」
その言葉に、イリヤは内心ほっとして食器を置いた。新しい食生活に慣れるには、少し時間がかかりそうだった。