魔術師と下僕
学校に着くと、たくさん人がいる、という感想しか出てこないぐらいたくさん人がいた。
そもそも最近では魔術を扱える学校も少なくなり、この辺りの学生は大体ここで学んでいるという事情があるようだ。
廊下で派手な装いの少年少女とすれ違ってはイリヤは目がチカチカするような感覚をおぼえたし、ジオは普段の三割り増しぐらい険しい顔で眉間を揉んでいた。
「なんかすっごいいろんな匂いがするんだけど。香料?」
鼻が詰まったような声でジオが言う。
「さあ……」
ジオもイリヤも、自分たちの纏うさまざまな植物の匂いがこの空間に溶け込んでいることには気づかない。
「あとさ」
ジオがくるりと振り向いた。
「……おたくは誰なの」
イリヤはその存在に全く気付いていなかったが、実は校舎に入る少し前から二人の後をずっとついてきている少女がいた。
イリヤよりも少しばかり背が低く、くるくるに縮れた赤毛を二つに結んでいる。大きな眼鏡をかけた彼女は悪びれる様子もなく、歯を見せてししし、と笑った。
「いやあ、気づかれてましたか。ちょーっとお二人のことが気になったもので。わたくし、一年のナターリアと申しますー」