魔術師と下僕
「うるせー、メガネザル」
ブルーノはナターリアに安直な罵倒をする。
「イリヤさん、わたしメガネザルっぽいですか?」
「さあ……あの、ブルーノ先輩。わたしは? わたしは何に見えますか!?」
「だからうるせえ、ていうかなんで興味津々なんだよ」
自分も動物に喩えてほしかったイリヤは、少し残念に思った。
「オレの許可なんか要らないだろ。勝手に座れよ、こっちが移動する」
「あっ、先輩!」
「先輩って言うな!」
引き止めようとしたイリヤを怒鳴りつけて、ブルーノは他の席に移動してしまった。追いかけようとするイリヤだったが、
「何やってんの」
いつの間にか、後ろに『本日のパスタセット』を持ったジオが立っていた。ちなみに、ソースはツナトマト。食堂の入り口の黒板で、かわいくデフォルメされたおじさんの絵が「料理長オススメ!」とウインクしていたのを、イリヤは思い出した。
「おっ、先生。面白……、いいところにいらっしゃいましたね」
「今面白いって言おうとしたでしょ」
失言を指摘されたナターリアはしかしニマニマしながら、「やばいです。早くも恋のライバル登場の予感ですよ」と言い出した。
「はあ? 恋? 意味がわからないんだけどーー」
と。
ジオはイリヤが熱い視線を送る先に、ブルーノがいるのに気づく。しかも、物憂げにため息までついているではないか。
いやいや。
「いやいや、君ら出会ったばっかりでしょう。簡単に恋とか無いって。無い無い」
ジオは即座に否定するが、ナターリアは食い下がる。
「そうでもないですよ。よくあるじゃないですか、雷に打たれたかのように、突然恋に落ちてしまった……みたいな話が」
「ふーん……」