魔術師と下僕
「あとはーー服と日用品か」
「あの、わたし、大丈夫です……」
「勘違いしないでくれる? お前のためじゃなくて僕のため。そんなボロい服、僕が着せてると思われたら気分悪いし」
そんなこと誰が思うのか知らないが、それからジオはしばらく眼鏡をかけてパソコンと睨めっこしていた。子供の服とかマジでよくわかんないんだけど、などとぶつぶつ文句を言いながら。
服が到着したのは翌日だった。かわいらしいものばかりで、イリヤは戸惑う。というのも、綺麗な服では家事労働がし辛いからだった。
思い切ってそのことをジオに伝えたところ、下僕の仕事は家事じゃなくて勉強! とものすごい剣幕で叱られ、イリヤにあてがわれた二階の部屋には新たにタンスと勉強机が運び込まれた。
続いてジオは自身の書斎にイリヤを案内した。本棚にみっしり詰まった本の、イリヤは背表紙すら読むことができない。
「ここにある本は全部勝手に読んでいい。ただし、必ず元の場所に戻すこと」
見て、と背表紙の下の方を指さすジオ。数字が書かれたシールが貼ってある。
「棚の番号とその棚の何番目の本かが書いてある。絶対に順番を入れ替えたり、失くしたりしちゃいけない」
ジオの表情には妙な迫力があった。本当にやってはいけないことを教えるときに、大人が子供をおどかすためにするような表情だ。イリヤは息を呑んだ。
びくびくしているイリヤをよそに、ジオは急に思案顔になると、ぼそりと呟く。
「……絵本が無いな。僕としたことが」