魔術師と下僕

 実習は対面授業の三日目に行われた。

 イリヤたちのクラスの実習を担当することになったのはライナルトという爽やかな好青年風の男性教師で、女子がずいぶん熱狂していた。

 確かに顔は綺麗だが不気味の谷がある、あれは魔術で一時的に作っているか、あるいはとんでもない本性を隠しているに違いないーーと、ナターリアが女性誌のゴシップ記事みたいなことを言ったが、イリヤはそういうものか、と思うだけだった。

 華がありすぎるというのも問題なようで、ライナルトが黒板になにか一文字書くたびに「先生カッコいい」「あの字をフォント化してほしい」と一部女子が極端に騒ぐので、本人がやりづらそうに見える。

 ひろびろとした実習室の後方にはジオもいて、ハシビロコウみたいな目つきで生徒たちを見回している。こちらは愛想のあの字も無いのでみんな怖がって目を合わせようとしなかった。

 ただ、彼の存在に気づいたイリヤがそっと手を振ったときだけ、少しやさしいハシビロコウ、ぐらいの目で、周りに気づかれないように頷いて見せた。授業参観に来た父兄状態である。

 班ごとに黒い円卓を囲んでいると、これから怪しげな儀式でも始めるかのようだ。


「テーブルの真ん中に、人数分の石がありますね」


 ライナルトが言い、生徒たちは各々のテーブルに視線を向ける。
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