魔術師と下僕
 面倒な生徒だな、と嫌な顔をされる予定だったブルーノはやや意外そうにライナルトを見る。


「今は我々の生活を豊かにするのが魔術の主な役割ですが、昔は人の命を奪うために使われたこともありましたーーと、いうお話は歴史の授業にお任せするとして。危ないものだからこそ、子供のうちに、少しずつ扱い方を学んで欲しいわけです。たとえば君が山で遭難したとして、ライターもマッチも持っていないときにこの方法を知っていたら、役に立つと思いますよ」

「山には行かないんで、大丈夫です」


 と、なおも食い下がるブルーノに、「まあまあ、山に限定しなくても、万が一ってことがありますからね」、とライナルトはにこやかに言い、ジオが大あくびをした。



 では早速やってみてください、という合図で、みんなが一つずつ石を持ち、黒板に書かれたとおり呪文を唱えた。

 多くの生徒が石に火をつけたが、大抵はライナルトのものより一回り小さい火か、燃えている時間もごく短かい火だった。


「どう? できてる?」

 
 ヴィットリオは自分の火をみんなに見せた。ときどき線香花火みたいに弾ける。まあできてる、とみんな頷いた。ナターリアは石を触った手をくんくん嗅いで「くっせ」と言い、それがツボに入ったらしいヒルデがげらげら笑っている。

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