魔術師と下僕

「あの、見てください!」


 イリヤの声に、みんなが静まり返る。


「ブルーノさんの石……お花になっちゃいました!」


 お花とは?

 と思ったであろうみんながブルーノの手元を見ると。

 石は、一輪の可憐な白い花に姿を変えていた。
 当事者なのに状況が飲み込めないブルーノはえ、え、とあちこちに視線を彷徨わせた。

 ナターリアがつかつかと近づいて、花の匂いを嗅ぎ、「うーん、めっちゃ花」と言った。なぜかツボに入ったヒルデが笑いすぎて咽せ、ヴィットリオに介抱される。

 ライナルトは困っているとも面白がっているとも取れる微笑を浮かべる。


「火じゃなくてお花にしちゃったんですね」


 そして、ぱちん、と手を叩くと、「まあいいか、可愛いし。魔術には人を笑顔にする力もあるということですね。少なくとも、先生は笑顔になりましたよ」と、なんだかんだ無理矢理良い雰囲気にしようとする。そして一部女子が騒ぎ、ブルーノが火の呪文を使わなかったことは有耶無耶になった。

 ブルーノは、「え……どういうこと?」と困惑しきった表情で呟く。ジオは後方の壁にもたれて、静かに眉間を押さえた。

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