魔術師と下僕

 放課後。
 イリヤとナターリアは、二人で寮に戻ろうとしていたところをブルーノに呼び止められた。


「おっ、どうしたんすかブルーノ先輩」


 ナターリアが気楽に応じ、「先輩言うな」と突っ込まれる。


「さっきのことなんだけど」


 そう言われて、イリヤは背中に大量の汗をかいた。余計なことをしてしまったのでは……と、あの後ずっと心配して、授業に集中できなかったのだ。

 でも、怒られるかな、というのはイリヤの考えすぎだった。


「なんかよくわかんなかったんだけど……助けてくれようとしてくれたなら、ありがとう。……なんで泣くの?」

「すみません……あれで良かったのか分からなくて、なんだかほっとしちゃって……」


 と、不安な気持ちが緩んだイリヤはめそめそ泣いてしまい、ブルーノをさらなる困惑のなかへ突き落とす。


「やっぱりあの花、お前だったんだな」


 あのとき、震えているブルーノの肩越しにイリヤがこっそり呪文を唱えて、石が燃えるよりも先にお花に変えていた。


「この間、酷いこと言って悪かった」
「え、なんのことですか……?」


 イリヤはちーん、と鼻をかんだ。ブルーノは「覚えてないなら忘れたままにしておいてくれ……」と苦笑する。

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