魔術師と下僕

 それからのイリヤの勉強は困難を極めた。
 孤児院では本を手にしたことなど無く、ともかく雑用の日々だったのでしゃべることはできても読み書きは難しい。

 ジオは特に何も言わなかったが、勉強しろ! という無言の圧みたいなものをイリヤはひしと感じていた。なにしろ、「仕事は勉強」なのだ。

 はじめの頃はジオがネット通販の箱いっぱいに買った新品の絵本の、絵だけを目で追うことに集中した。


「お前、絵が好きなの?」

 絵本を詠む背中に声をかけられて、イリヤは驚く。絵が好きかどうか。そんなこと、考えたこともなかった。そもそも自分の気持ちを聞かれることがまずなかった。

 はいともいいえとも言えず、イリヤはやっとのことで答えた。

「わ、わかりません」

 怒られるかと思ったが、ジオはなにやら難しい顔で「そう……」と答えただけだった。

 数日後、家に新しい箱が届いた。
 中には、24色セットのクレヨンと、大きなスケッチブックが入っていた。

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