魔術師と下僕


 ブルーノは、やはり火が怖いのだという。


「妹がいるんだけどさ。親父の研究室で遊んでた時に、オレが火傷させちゃったんだ」


 あの時の火と、妹の泣き声を思い出して今も時々眠れなくなる、と彼は言った。妹の手には火傷の痕が残ってしまったという。

 今は魔術をやる気はないが、他の進路を選ぶことを、ブルーノの両親は許さなかった。


「で、対面授業に一度も出ないで遊びまくってたら留年を余儀なくされた、と……」


 ぶくく、とナターリアは笑う。


「いやブルーノさん、めっちゃ不良ですね」
「釣りしたり、漫画喫茶で漫画読んだりな……」
「あれ? 思ったより健全だ」


 もっとこう、煙草とか吸ってんのかと思いましたよ、いや火が無理だっつんてんだろ……と、一通り言い争うブルーノとナターリアを見て、イリヤの涙も落ち着いたころ。

 ブルーノは照れ臭そうに、


「じゃ、また明日」


 と言った。


 イリヤとナターリアも、「また明日!」と返す。

 できればもっと早く仲良くなりたかったな、とイリヤは少しだけ後悔した。そしてますます、明日が楽しみになった。

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