魔術師と下僕

 帰りの電車は来た時よりも静かでさみしい感じがした。イリヤはこの四日間のことを次々と話し、それと対照的に、ジオは一貫して聞き役だった。


「班のみなさん、いい人ばかりでよかったです」


 ナターリアやブルーノの顔を思い浮かべて、ジオは彼らがいい人かどうかという根本的な疑問を抱きはしたが、イリヤがそう思ったならそれでいいだろう、と一応納得した。


「まあ、イリヤがいい子だからそう感じるんでしょ」


 ジオは褒めるというよりも自慢に近い気持ちで言い、イリヤはどう返事をしたものか、という顔をしたのち、代わりにこんなことを言った。


「それで、わたし気づいたんですけど」
「なに?」
「ブルーノさんと仲良くなりたかったのは、ちょっとジオに似てるからかなって」
「似てるって、僕とあいつが?」


 ジオはそんなことないだろう、と思ったが、イリヤはうんうん、と真面目に頷いた。どうやら言葉にしたことで、改めて確信したらしい。


「ジオとクラスメイトだったら、こんな感じだったのかなって思いましたよ」
「そうなのかなあ」

 イリヤと学校生活。
 ジオは今でも学校は嫌いだが、もしもあの頃イリヤがいたら、それは違ったのかも知れない。


「いっぱい質問があるので、帰ったら教えてくださいね。……他のみなさんの後でいいので」


 生徒は自分だけではないことを思い出して、イリヤは遠慮がちに付け加える。


「いいよ、イリヤが最初で」


 遠慮しなくていいーーとは言えない。この頃あまりイリヤを優先できていなかった分際で。


「生徒はたくさんいるけど、下僕はイリヤひとりだけだからね。特別」


 特別、という響きだけで、イリヤの気持ちは不思議と舞い上がってしまう。そして満面の笑みを浮かべて、元気に「はい!」と返事をした。
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