魔術師と下僕
「下僕に命令だよ。明日は出かけるから、30分早く起床すること。動きやすい服装に着替えるように」
有無を言わさない口調にイリヤははいと答えた。そして二階に行き、食虫植物のような葉を持つ植物の鉢に話しかける。「明日は30分早く起こしてください」葉っぱは頷いた。了解の合図らしい。
この奇妙な「目覚まし草」を渡されたとき、ジオに使い方を教わった。もっとも、イリヤはこの植物をもっぱら話し相手にしていて、目覚ましとして使うのは今回が初めてだったのだが。
しかし、使うのが怖いからといって、主人の命令であるからにはまさか寝坊などするわけにはいかない。イリヤは動きやすい服を枕元に置いて眠りについた。
ーー翌朝。
下手な初心者が自信満々に弾くバイオリンのような、耳障りな音が聞こえた。キーコ、キーコ、と。深刻な頭痛を発症しそうになりながら、イリヤは、そういえば止め方が分からない、と思う。
寝起きの頭でいちかばちか、「止まってください」と言うと。
キーーーーーーーーーーーーーー。
最後に一際大きく鳴って、「目覚まし草」の音は止んだ。イリヤはふらふらしながら身支度をするはめになった。