魔術師と下僕

ジオはカエルになったイリヤを呼び寄せ、シャツの胸ポケットに隠してくれた。すごく嫌そうに、だが。


「行こう。僕ももう限界かも」


 ジオの気力が切れたら、レンブラントを捕まえている手はすべて消えてしまう。

 カエルの姿ではよくわからないが、ジオは本調子でなさそうに見えて、イリヤは心配になる。ポケットの中でひたっと胸に張り付くと、ジオが身震いしたので、なるべく距離を取ろうとイリヤは頑張った。

 地上に出ると、空飛ぶ絨毯ならぬ玄関マットが、主人の帰りを待っていた。

 カエルのイリヤを玄関マットに先に乗せ、ジオはその隣に体育座りをする。マットはふわふわと宙に浮かんだ。街を見渡すようなロマンチックな移動ではない。ジオのスタミナが切れかけているため、低速・低空の安全飛行だ。

 怒られるんじゃないかと思ったイリヤだが、主人の声は優しい。「大きな怪我がないならよかった。ワンピース、ごめん」

 なぜジオが謝るんですかと言ったつもりの言葉はケロケロという鳴き声に変換された。


「知らない人にはついて行かないでって言ったでしょ」
 どこにも行かないで。

 しばらく無言のままの移動が続き、ようやく二人は家へと帰り着いた。ジオは空飛ぶ玄関マットを普通の玄関マットに戻すと。


「イリヤ、おいで」

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