魔術師と下僕
玄関にはきれいな運動靴が用意されていた。
「これを履きな。たまには外に出ないと病気になるからね。下僕が病気になったら誰が看病するの? まさか僕? 主人に看病させる下僕なんていなんだから」
ジオは大きなバスケットや、ふかぶかとしたトートバッグを抱えている。
「わ、わたしが持ちます!」
イリヤは勇気を振り絞って申し出たが、「僕の持ち物に傷がついたら最悪だからダメ」と即座に却下されてしまった。
それから家を出て、二人はのんびり歩いて行った。どこへ向かっているのか気になったが、訊ねる勇気はない。
空は快晴で、あちこちにちぎれ雲がある。日差しのあたたかさも、ときどき吹くそよ風も、さらりとしていて心地が良い。イリヤはする必要もないのに、孤児院の洗濯物の心配をした。
ジオは下僕が逃げないように監視していると言い、ときどき振り返ってはイリヤがちゃんと付いてきているかどうかを確かめていた。イリヤにとっては逃げるなどとんでもない話だ。
そして2、30分も歩いただろうか。
「着いたよ」
そこには、広くてうつくしい野原が広がっていた。