魔術師と下僕
レンの様子が気に入らないのはジオだ。教えることは教えるが、いつも不機嫌そうなので怖い先生で通っており生徒人気はない。
「イリヤ、あまりあいつと関わっちゃだめだよ、バカがうつるからね……」
と、レンと顔を合わせないために素早く距離を取っていたジオが戻って来て言った。イリヤははいともいいえとも言えず、困った笑顔を浮かべるほかなかった。
その時。
「にゃーん」
と、猫の鳴き声がした。迷い猫だろうか、とイリヤは周辺を見渡す。結果を言えば、それは迷い猫ではなかった。
「さ、シルフィ。今日も頑張ろうね」
「にゃーん」
一部で爽やかイケメン教師と崇められる、ライナルトだ。彼が、白い毛に赤い首輪の猫を連れて、職員通用口に向かおうとしていたのだ。
その様子を見ていた女子たちの、残念そうな声がぽつぽつ聞こえてくる。
「あーあ、ライナルト先生……」
「すっかり猫に夢中みたいだね」
「でも猫でしょう? だったらまだ可能性が」
「あんたに? いや、ないない」
女子たちの空気が一瞬ピリつく。
「冗談よ。でもライナルト先生、『人間より猫が好き』って公言しだしたらしいわ……。どちらにせよ、強力なライバルに違いないわね」
謎の闘志を燃やす女子たちを見て、ジオは一言、「くだんな」と呟いた。