魔術師と下僕
「不気味の谷、すっかりおかしくなってますね」
実習の時間にまで猫のシルフィを連れ込んだライナルトについて、ナターリアは評した。そして、「失礼な呼び方するなよ」とブルーノに咎められる。
「まあ、前よりは人柄が見えてきたっつか、抑圧からの劇的な解放? みたいな、こう、スピード感のあるハッピーさが見えますよね!」
「ごめんナタちゃん、よくわかんない」とイリヤ。
ライナルトは授業について説明をしながらシルフィの白い毛を愛おしそうに撫でている。そんな調子なので、説明は説明の体をなしていない。
シルフィはというと、ライナルトが一歩動けば騒ぐ一部女子たちを威嚇した。ライナルトはダメだよシルフィ、と文字通りの猫撫で声でなだめる。
しかし一部女子たちに対しては、「申し訳ないけどこの子の気に障るみたいだから、あまり騒がないでくれるかな」と冷徹に言い放った。なんという温度差。そこにいつもの笑顔はない。
「何か裏の顔があるぞとは思ってましたが、ついに本性を表したってわけですね」
ショックを受けている一部女子たちにを尻目に、ナターリアはなぜか楽しそうに、ししし、と笑った。
「にしても急に猫なんて。しかもあの真面目そうな先生がわざわざ職場に連れてくるとなるとーー相当の因縁があるに違いないっすね。おそらく前世絡みでしょう」
「前世!」と、占いに少なからず興味のあるイリヤとヒルデは盛り上がる。
「なんかそれ、急にオカルトじみてないか?」とヴィットリオ。
「前世で猫に酷いことをしたから、今世では猫に心を奪われ、支配される運命なんすよ!」
「へー。こわいね」
ヴィットリオはナターリアの力説に苦笑した。相槌を打ってあげるだけ優しい。
一方猫のシルフィは、何を思っているのか、そんな実習班メンバーの姿をじっと見つめていた。さらにそのシルフィを、ジオが見つめていた。