魔術師と下僕

 休み時間。ライナルトは、校長に呼び出されていた。

 校舎に猫を持ち込むのは禁止だ、と宣告されたライナルトは「ただの猫じゃない。大切な家族です!」と抵抗し、校長を驚愕させたらしい。


「じゃあこうしよう。猫の姿のままうろつかれると、可愛すぎて生徒も教師も気が散って仕方がない」
「それは! ……たしかにそうですね、申し訳ありません……」


 ライナルトは肩を落とすがシルフィを褒められた嬉しさを隠せていない顔をしていた。校長はやれやれ、と思いながら続けた。


「そこでだ。この学校の敷地にいる間、君の猫……シルフィには、人間の姿でいてもらう」
「人間の?」
「そうだ」


 校長は居合わせたレンの作業服の裾にじゃれついているシルフィに呪文をかけーーかくして彼女は、真っ白な少女に変貌したのである。

 ライナルトは驚きながらも、レンに向かって叫んだ。


「貴様! シルフィから離れろクソ変態が!」
「オレじゃねえ! こいつがじゃれてきたんだよ!」
「ライナルト」


 シルフィはレンを指差し、鈴を転がすような声で言った。


「こいつ、おもしろいよ! あのね、すっごいバカ!」
「そうだねシルフィ、彼はバカだ」
「誰がバカだ! バカって言う方がバカだろうが!」


 二人と一匹ーー否、三人は、校長から「アタシの部屋で騒ぐとは良い度胸だな」と毒蛇のような眼で凄まれ、すっかりおとなしくなった。
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