魔術師と下僕
ライナルトはシルフィと寮で共に過ごすことを切望したが、いくら普段は飼い主と飼い猫とはいえ、少女の姿のシルフィを男子寮側で寝泊まりさせることはまかりならんという校長からのお達しがあった。
ライナルトはシルフィが心配でたまらない。そこで、見るからに優しいイリヤさんなら……と、シルフィの世話をイリヤに頼みたいという。
「ごめんね、イリヤさん。突然こんなこと頼んじゃって」
シルフィの後を追って教室に来たライナルトはやや息切れしていた。人の姿になってなおすばしっこいシルフィを追いかけるのは、まだ中年と呼ぶには早いという年の頃の彼にとっても大変らしい。
気の毒に思ったイリヤは「わたしは大丈夫ですからお気になさらず……」と応じた。
ナターリアやヒルデはシルフィに興味津々で、姿や表情をしげしげと観察している。
「すごい、人間にしか見えないね」
「たしかに、匂いもまるっきり人間っすよ。校長先生さすがっすねぇ」
さすが、強力な魔術で美を保っていると誤解されるだけある。こういう術の場合どこかにボロが出るものなのだが、校長の技術には確かなものがあった。
ブルーノやヴィットリオは種を明かされてもシルフィが人間にしか見えない。猫というより知らない女の子の存在にどうしていいかわからない様子で、まともにそちらを向くことすらできないでいた。