魔術師と下僕
イリヤとシルフィの部屋に、ナターリアとヒルデもいた。女四人車座になってなにを話しているかと言えば恋のことで、これまでの対面授業の期間中は三人でしていたことにシルフィが加わったというだけである。
ヴィットリオの交際を明かして以後、ヒルデは彼の愚痴を言う。愚痴の体の惚気だ。「ヴィンは頼りないから、もう少し逞しくなってほしいんだよね」云々。イリヤはなんか大人って感じ、ととにかくドキドキが止まらない。ナターリアは「姐さんが鍛えてやんなきゃダメっすよ!」とイジりに徹する。
イリヤとジオに関しては、なにもないとは言いながらもなんかあれ、と思いながらもなにもない。そんなじれったい状況を友人たちがうっすら楽しみはじめているふしがあった。
「まあ未成年の生徒に手出ししたらいろいろおしまいっすもんね!」とナターリアは身も蓋もないことを言ってげらげら笑った。
「でも私たち、しようと思えば結婚できる歳なんだよね〜」とヒルデがさらりと言う。
結婚などという飛躍が過ぎたワードに、イリヤは頭がくらくらしてくる。
イリヤ、君は下僕じゃなくて、僕の妻になるんだよ。
ーーなどというセリフをジオに言われたらーーこれ以上妄想したら命の危険があると判断し、イリヤは脳内で作り出した都合のいいジオを追い払った。
「結婚なんて! そんな! まだ早いと思います!!」
「おや、イリヤさん〜、なんか敬語に戻ってますけど大丈夫っすか?」
「イリヤちゃん、とりあえず座ろうか」
ヒルデに促されてイリヤはようやく自分がなぜか立ち上がってしまったことに気が付き、あまりの恥ずかしさに両手で顔を覆った。