魔術師と下僕
と、ここまで自分は当然イジる側みたいな顔でやいやい言っていたナターリアに水が向けられる。
「ナタちゃんはどうなの?」
ヒルデに問われたナターリアは、「どうって何がっすか?」とまるで知らない風を装った。これにはヒルデもイリヤもやれやれという顔をした。ナターリアはなにかというと茶化すので、ブルーノが気の毒になってくるのだ。それでも諦めないところを立派というべきなのか。
いつ訊いてもナターリアはブルーノを「面白い」「良い人」とは言うが、果たして本当にそれだけか。
「好きな人いたりしないの?」
ヒルデが詰め寄るのもお決まりの流れ。ここでブルーノ以外の名前が出たら残酷だけれど、大抵の場合、ナターリアは芸能人かアニメキャラの名前を挙げる。
しかし、今回は違った。
「あー、いないっすね。そういうのわからないんで、自分は、マジで」
おやおや? という空気になったのは言うまでもない。
「いいじゃないっすか、私のことは。知らん知らん。とりあえずヒルデさんもイリヤさんも幸せになってください。ああー爆発しろー」
「どうしたのナタちゃん、様子がおかしいよ?」
イリヤは本気で心配したつもりだが、ヒルデはいやいや、様子がおかしいってお前、とこっそり肩を震わせた。