魔術師と下僕
「わー……」
イリヤは思わず感嘆の声を漏らす。
「リアクション小さいね。せっかく連れてきてあげたんだからもっと喜んでほしいんだけど」
「す、すみません」
「もういいよ。はい、これ」
ジオがイリヤに手渡したのは、クレヨンとスケッチブックだ。
「命令。なんでもいいから、ここにある花の絵を描いて僕に見せること」
「絵……ですか?」
「そう。絵。描いたことある?」
「いえ。ない、と思います」
「ふーん。じゃ、僕が呼ぶまでに描いて。はい、スタート」
急に始まった写生大会にイリヤはどうしていいかわからず、しばしあたりをうろついた。結局ジオにどうすればいいですかの視線を送ると、ジオはやれやれとばかりに立ち上がる。
「花って言ったけど草でもいいし、野原全体を描くんでもいいよ。お前がひねくれ者なら空を描くかもね。でも別に怒ったりしないよ、僕は寛大だから」
イリヤはますます混乱した。
「じゃあ、タンポポでも描きなよ」
と、ジオは黄色い花を指さすと、クレヨンの箱を開けてくれる。
「ありがとうございます」
「ん。まあ、上手く描けなくても頑張って」
僕はその辺にいるから、とジオは言って、少し離れたところに歩いて行った。
イリヤはこれかな、と思ったクレヨンを手に、タンポポを描き始めた。