婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
「はいっ。いただきます」

 スプーンを手にして、大好きなピスタチオのジェラートからいただく。ひと口で濃厚だけど、さっぱりと喉を通っていく。

「んーっ、とてもおいしいです」

「一葉ちゃんの食べる姿はいいわね。私もいただきましょうかね」

 和歌子おばあ様はホッと安堵して、ピスタチオのジェラートをすくって食べた後、口を開く。

「お蕎麦を持ってきてもらっちゃってごめんなさいね。先日いただいたお蕎麦がとーってもおいしくて、政美ちゃんに話したらすぐ持っていかせるからって」

「おばあちゃんも来たかったと思います。今日は通院があって。あ、高血圧なので月に一度通っているんです」

「ええ。病院へ行くと行っていたわ。お薬で抑えられるのなら安心だわ」

 話をしながらデザートを食べていると、先ほど玄関で話があると言っていたのを思い出す。

「和歌子おばあ様、お話って……?」

「あらあら、そうね。忘れっぽくて。孫が後で戻ってくるのよ。ぜひ会ってね。それでね、お夕食は近くのイタリアンレストランへ一葉ちゃんをご招待したいの」

 お孫さんがパリから来ていたんだ。でも、夕食までご馳走になるのは……。

「お孫さんにはぜひ会わせてください。お夕食は――」

「あ! 帰ってきたようだわ」

 断ろうとしたのだが、玄関のインターホンが聞こえてきて和歌子おばあ様の意識が玄関の方へ向いた。

「すぐ来るからね」

 私は奥手で同年代の初対面の相手とはなかなかすぐに打ち解けない性格なので、心臓をドキドキさせて彼女が現れるのを待った。

 スリッパの音が微かにして、背を向けて座っていた私は挨拶をするために腰を上げた。

「亜嵐、おかえりなさい」

 和歌子おばあ様は立ち上がり、うれしそうに声をかける。

 え? アラン? それって男性の名前じゃ……?

 腰を上げた状態のまままだ振り向いていない脳内で困惑する。

「おばあ様、ただいま」

 おそるおそる振り返る耳に、心地よい男性の声。

「ちょうどよかったわ! ほら、話したでしょ。その一葉ちゃんがお蕎麦を持ってきてくれたのよ」

 目線を上にずらした私はわが目を疑った。

 先ほどロビーで談話中だったあの素敵な男性だ。さっき目にしたのは横顔だったけど、ライトグレーのスーツは記憶に残っている。

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