婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
「それはダメよ。若い女の子なんですもの。しかもお着物なんだから、いざとなったら逃げられないでしょう? 最後まで責任を持ってご自宅へ送り届けなくてはね」

「車を回すから、おばあ様、レジデンスのエントランスで一葉ちゃんと待っていてくれないか?」

「わかったわ。一葉ちゃん、行きましょう」

 亜嵐さんが私たちから離れ、レジデンスのエントランスへ向かう。到着して二分ほどして、艶のある黒い高級外車が近づいてきた。

 私たちの目の前に車を止めた亜嵐さんが運転席から出てきて、助手席のドアを開けてくれる。

「一葉ちゃん、乗って。またいらしてね」

 和歌子おばあ様にハグをされて内心驚くが、「失礼します」と笑って乗り込んだ。

 静かにドアが閉まり、シートベルトを締めたところで運転席に亜嵐さんが戻ってきた。

 外で手を振る和歌子おばあ様に会釈をしていると車が動き始めて、住所を教えなければと窓から亜嵐さんへ顔を向ける。

「住所は――」

「知っている。道路の込み具合もあるが、三十分くらいで着くだろう」

「わざわざすみません」

 亜嵐さんは慣れた運転でステアリングを握り、辺りに注意を向けながら車を走らせている。

「君と話もしたかったからね」

 やっぱり和歌子おばあ様の話は真に受けないようにと言うのだろう。

「あの、おばあ様の話は真に受けていませんのでご安心ください」

 自分の気持ちをちゃんと知らせられて、ホッと胸をなで下ろす。

 車は赤坂御用地を右手に神楽坂に向かって走っている。信号が赤になり、静かにブレーキが踏まれた。

 前の車のテールランプを見ていた私は、視線を感じて運転席へそっと顔を向ける。

 視線を感じた通り、亜嵐さんは私を見ていた。

 車内は薄暗いのにしっかり目と目が合い、また私の心臓がドクッと跳ねる。

「真に受けてもらわないと困るんだが」

「え? それは……亜嵐さんは私と結婚してもかまわないと言っているんですか?」

 信号が青に変わり彼は再びアクセルを踏み、車を走らせる。

 一瞬間を置いてから、亜嵐さんが口を開く。

「ああ。祖母の願いだからね」

「年齢的にも大人な亜嵐さんには、私は似合わないと思うんです。それにそんなに素敵なんですから、彼女のひとりやふたりいてもおかしくないです」

「俺を素敵だと思ってくれているんだ」

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