婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
 父の険悪さとは真逆で、祖母はニコニコしている。

「おばあちゃん、突然で驚いたわ」

「ほら、ばあさん。一葉は驚いているじゃないか。今時そんな縁談なんぞ流行遅れだ」

「和夫(かずお)、お黙りなさい」

 祖母は息子にビシッと言いきって、私の手を握る。江戸っ子の祖母はいざとなったら、大きくなった息子でも敵わないほどわが家では権力者だ。

「それで一葉はどう思ったんだい?」

「突然のことでなんて言えばいいのかわからない。私は亜嵐さんにふさわしいとは思えないのは確かよ」

「食事をしたんだろう? 今も送ってもらったんじゃないかい? 亜嵐さんを気に入らなかったのかい?」

 私の顔を覗き込んで尋ねる祖母に、父が口を開く。

「そりゃそうだろ。十歳も違うんだ。一葉はまだ十八の小娘だぞ。狼に食われるウサギだよ」

 父のたとえがひどすぎて、あきれた笑いが込み上げてくる。

「一昔前なら立派に嫁に行っている年だよ」

 祖母と父のやり取りに、チラッと対面に座る母に目を向ける。

 母は蕎麦屋のホールを受け持っていて、お店ではテキパキしてしっかりしているが、嫁の立場を考えて祖母には気を使う。

「なにも私だって、道理をわきまえてますよ。肝心なのは一葉の気持ちさ。私は亜嵐さんが一葉にピッタリだと思っているんだよ」

「おばあちゃん、亜嵐さんと会ったの?」

「実は会ったんだよ。でも向こうは知らないよ。フォンターナなんとかっていうのが、六本木にお店があるんだよ。日本支社長まで務める彼の会社がどんなのか気になってちょっと行ってみたんだ」

「六本木に行ってたの? あのときが初めてかと……」

 不安だから連れていかれたのだと思っていたけど、あれは私を和歌子おばあ様に会わせるための作戦だったのだ。

「まだ話はあるんだよ。忙しい日本支社長がたまたま店にいたのさ。彼が光り輝いているように見えたね。こんな高級家具なんて買いそうもないばあさんでも彼は目と目が合うとしっかり会釈してくれたよ。素敵だっただろう?」

「う、うん……」

「まったくばあさん、勝手に動くんじゃないよ。出先で倒れたら大変だろう」

 体の前で腕を組んでいた父はあきれている。

「ふたりがどうのこうのと話しても、一葉の意見を聞きたいわ。一葉の気持ちはどうなの?」

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