婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
 ピリッとした場の雰囲気に、今まで黙っていた母の声が響く。

 娘の将来に関することだから黙っていられなかったのかもしれない。

 主張し合っていた祖母と父の顔が、いっせいに私に向けられた。

「私は……亜嵐さんを知りたいと思ったわ。亜嵐さんも急な話で戸惑うだろうと、今度会うことにしたの」

「そうかい、そうかい。デートをするといいよ」

 祖母は笑みを浮かべて賛成するが、父は苦虫を?みつぶしたような顔だ。そんな父に口を開いたのは母だ。

「お父さん、私は様子を見たいわ。今まで彼氏すらできなかった一葉だから、大学を卒業して会社員になって、もしかしたら結婚相手がいないかもしれないわ。結婚はご縁だから、この出会いが本物なのかどうか、私は注視したいの」

「うむむ……」

 腕を組んだ父はぐうの音も出ないといったふうだったけど、「仕方ないな」と言ってリビングを出ていった。

 お風呂から出て二階の自分の部屋に戻り、ホッと息を吐く。亜嵐さんを前にしてさんざん緊張していたのに、お父さんたちとのやり取りもあってかなり疲れた。

 髪の毛をタオルで拭きながら、デスクの上に置いた亜嵐さんの名刺に目を留めた。先ほどの約束を実行しなければならないので、さらに心臓がドキドキし始める。

『これが俺の名刺だ。そこにスマホの番号も入っているから、登録しておいて。寝る前にその番号にかけてワン切りしてくれ。一葉ちゃんの番号を入れておくから。話がしたかったらワン切りじゃなくてもいい』

 肩にタオルをかけたまま、スマホを手にする。

 時刻は二十三時三十分を回っている。

「話がしたかったら、か……。もうへとへとだし、なにを話せばいいのかわからない」

 名刺の番号を入れて、通話をタップした。

 それだけなのに鼓動が早鐘を打ち始める。

 呼出音が鳴りワン切りでは不安だったので、二回で切った。そしてドキドキしながらスマホを抱きしめ、胸をなで下ろした。

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