婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
 ぼうっと見ていた私と目が合った亜嵐さんは微笑み、慌ててペコリと頭を下げた。

 こうして、私たちの初めてのデートが実行された。

 ランチは混む前にと、散策よりも先にお堀沿いにあるレストランカフェに案内した。

 川に突き出たデッキサイドもあるが、暑いので室内の窓際の席を選んだ。

「雰囲気がいいレストランだ」

 亜嵐さんもオシャレな外観と室内に満足してくれているみたいで安堵する。

「あ、だけど。ごめんなさい。またイタリアンですね」

「問題ないよ。ピザがおいしそうだ」

「はい。四種類のチーズだけのシンプルなフォルマッジもいいし、パスタもお勧めです。あ、すみませんっ、亜嵐さんの好きなお料理でいいので」

 異性とデートした経験がなくなにを話したらいいか迷い、間を保たなければと饒舌になる。

「一葉ちゃん、思ったことを話してもらえた方がいいから、謝らなくていいんだ。いつもの君でいて」

「じゃ、じゃあ、普通で……」

 そうは言っても、亜嵐さんのような人を前にしてこの緊張が和らげられるのか。

 シェアをすることにして、亜嵐さんは私が勧めたフォルマッジと、釜揚げシラスやマッシュルームの乗った和風のパスタをチョイスし、サラダやデザートもオーダーしてくれた。

「はぁ~おなかいっぱいです。亜嵐さんごちそうさまでした」

 どうにか気まずくならずに会話をしながらランチを食べ終え、レストランを出たところで、支払ってくれた亜嵐さんにお礼を伝える。

「一葉ちゃん、君は学生で、収入のある俺が支払うのは当然なんだから、その都度言わなくていいよ」

「え? でも……」

「それなら、別れ際でまとめて。行こうか。神楽坂を案内して」

 亜嵐さんはレストラン前の信号が青になって私を促した。

 坂道をゆっくり上がりながら、気になった路面店で立ち止まり、見ては歩を進める。

 大通りから細い路地に曲がり、少し歩いた先に石畳の道になり、両端には赴きある料亭がある。

 かつて著名な小説家などが滞在したという旅館や、芸者小道など有名な小道を案内する。

 亜嵐さんは黒板塀や古い建物を楽しんでいる様子だ。

 石畳を歩きながら、家族の話をしてくれた。

 亜嵐さんの両親は、イタリア人と日本人のハーフの父親と日本人の母親。五年ほど前に父親が病気で他界したそうだ。

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