婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
 亜嵐さんにも聞こえているだろうな。でもこんな完璧な容姿なんだから、言われ慣れていてなんとも思わないかもしれない。

「一葉ちゃん、さっき落ち込んだ顔になっただろう?」

「え? そ、そうでしたか?」

 亜嵐さん、鋭い……。

「ああ。俺の家族の話をしているときだ」

「……亜嵐さんのご家族はすごすぎて。うちとは全然違ってて、やっぱり私なんかじゃ……と、考えてしまったんです」

 亜嵐さんは真剣な顔で、首を横に振る。

「そんなことはまったく気にする必要はない。祖母が君を気に入っているんだ。嫁ぎ先に味方がいれば、幸せな結婚生活を送れると思うんだが?」

「亜嵐さんは私でいいんですか? 和歌子おばあ様が気に入っているからって、簡単に結婚相手を――」

 そこでオーダーした飲み物が運ばれてきて、口を閉ざす。店員が去ると続ける。

「決めていいんですか?」

「簡単に決めているわけじゃない。一葉ちゃん、君は自分をわかっていないんじゃないか?」

「え……?」

 意味がわからずキョトンとなる私に、亜嵐さんは麗しく笑みを浮かべる。

「一葉ちゃんはかわいいよ。先日と今日、話をしていて性格のよさを感じた。俺はたくさんの従業員やお客様を見てきているから、人を見極める目はあると思っている」

 褒められて恥ずかしくなり、うつむいてフローズンスムージーのストローを口にする。

 そんな私に、亜嵐さんは楽しげに笑う。

「そうやって真っ赤になるところもかわいいよ」

「も、もうっ、からかわないでくださいっ」

 大人の余裕なのか、亜嵐さんだと嫌みにも聞こえないし、むしろ心地よい。もちろん恥ずかしさは多大にあるのだけど。

 その後カフェを出て、大通りにある和菓子店で亜嵐さんは和歌子おばあ様へのお土産を買った。神楽坂へ行くのなら買ってきてほしいと頼まれたらしい。

 ここの店主は祖母と仲がいいので、私が亜嵐さんと一緒に店内へ入ったら根掘り葉掘り聞かれそうで、外で待っていた。

 出てきた亜嵐さんは、ふたつ持っているショッパーバッグのひとつを私に渡す。

「一葉ちゃん、これはご家族に。食べ飽きているかもしれないが。まだ明るいが、ご家族に印象をよくしたいから今日はこれでデートは終わりにしよう」

 明るくても、十八時を回っていた。

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