婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
「なんだって!? うちに寄ってもらえばよかったのに。よくもこんな暑いのに、外をうろつけるもんだね。座りなさい」

 驚いている祖母に、亜嵐さんが買ってくれた和菓子のショッパーバッグを「はい」と渡して畳の上に腰を下ろす。

「和歌子おばあ様に頼まれたからって。おばあちゃんにも」

「おや、わざわざ」

 祖母はショッパーバッグの中から包装紙に包まれた箱を取り出して、丁寧に剥(は)がす。

「こんなにたくさん。水ようかんもちょうど食べたいと思っていたところだよ。気を使ってもらって、ありがたいねぇ。喜んでいたと、お礼を言っておいてくれよ」

 祖母はうれしそうにしわのある顔をほころばせる。

「で、どうだったんだ?」

「お昼は川沿いのレストランカフェに行って、散策して、カフェで涼んで、和菓子屋さんに寄って終わりよ」

「なんだよ。そのさっぱりした話は。で、亜嵐さんはどうだったんだい?」

 先を促す祖母はじれったそうだ。

「亜嵐さんは……ん―内緒っ」

 祖母にはっきり語るにはまだ中途半端な気持ちだから、もう少し固まってからにしたい。

「一葉、その顔はまんざらでもなかった顔だね」

「うーん、そんなとこ」

 ニコッと微笑みを浮かべたとき、エプロン姿の母がやって来た。

「お義母さん、食事ですよ。あら、一葉ここにいたのね」

「温子(あつこ)さん、これを冷やしておいて」

「まあ、一葉が?」

 数にして十五個はある。普段私がお土産に買ってくるのはひとり一個あての五個だから、母は不思議そうだ。

「一葉、先に行っていなさい」

「あ、うん」

 説明は祖母に任せて、そそくさと部屋を出た。

 その週の半ばの十三日から三日間、家業の蕎麦屋はお盆休み。

 私もアルバイトはお休みで、初日は別の大学に通っている親友、荒巻真美(あらまき まみ)とランチの約束をしていたのでカフェに向かった。

 真美はわが家から徒歩五分のところに住んでいるけれど、今日は大学に用事があったらしくカフェで待ち合わせることにしている。

 先に到着し、四人掛けの席に案内される。ここはハワイアンカフェで、料理がSNS映えすると人気がある。そのため、十一時のオープンを狙ってその時間に待ち合わせをしていた。

 私はSNSはやっていないけど、真美の希望でこのカフェに決めた。

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