婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
 自宅玄関へ足を踏み入れ、ドサッと上がり框にいくつものショッパーバッグを置いた。

 口をすぼめて「ふぅ~」と息を吐いてからスニーカーを脱ぐ。

「おかえりなさい~」

 リビングの方から母の声が聞こえ、続いて足音が聞こえてきた。

「一葉、真美ちゃんと食事してきたんでしょう? スイカがあるわよ」

 リビングの戸口から顔を出した母は、上がり框に並んだショッパーバッグに目を丸くする。

「すごい買い物ね。珍しいんじゃない?」

「うん。おこづかいがぜーんぶなくなっちゃった」

 そこへ祖母も現れる。

「あらまあ、洋服を買ってきたのかい。一葉はしゃれっ気がないから買いなさいと勧めようと思っていたところだよ。おばあちゃんがおこづかいをあげるよ」

「お義母さん、バイト代もあるんですから甘やかさなくても――」

「いいんだよ。今みたいな格好ばかりしていては、亜嵐さんと会うとき困るからね」

 祖母は上機嫌に演歌を口ずさみながら去っていった。

「お義母さんは一葉に甘いんだから」

 私は苦笑いを浮かべて、よいしょっとショッパーバッグを両手に持つ。

「部屋に置いてからスイカ食べるね」

「じゃあ、冷蔵庫から出しておくわ」

 母はリビングへ入ってきき、私は玄関横の階段へ片足をのせた。

 階段を上がってすぐの自分の部屋に入って、ショッパーバッグから洋服を取り出し、鴨居にかけていく。

 ワンピースが三着、トップスが二着、スカートが一着と、こんなに購入したのは初めてだ。それとドラッグストアでファンデーションとアイシャドーとリップも買った。

 すべてがプチプラだけれど、それでも三万円が飛んでいって罪悪感を覚えた。

 それから私は亜嵐さんと何度かデートを重ね、気遣う優しさやスマートな振る舞い、大人で頼もしい彼にどんどん惹かれていった。

 和歌子おばあ様とも一緒に食事をする機会も数回あって、彼の言う通り、望まれて結婚すれば幸せではないかと思った。

 だけど、亜嵐さんの気持ちはどうなのだろうかと二の足を踏む思いもある。でも彼が、私と結婚してもいいと考えるくらいなのだから、このまま話を勧めてもいいのだと気持ちを固めた。

 九月中旬の土曜日、鎌倉へドライブに連れていってもらった。

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