婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
 海へも足を延ばした。海水浴客はいないが、サーフィンを楽しんでいるグループなどがいる。

 あと一時間ほどで日没になる頃。砂浜の手前にあるベンチに座わり、景色を眺める。

 今日の装いは真美が選んでくれた小花をあしらった半袖のAラインワンピースだ。髪の毛は片側に流して、シュシュでまとめている。

 今日一日ずっと、結婚の話をどこで切り出そうかと思っていた。

 今、言った方がいいよね。

「あの、亜嵐さん……」

「結婚の話かな?」

 海を見つめていた亜嵐さんが私へと顔を向けて、鼓動がドクッと跳ねた。

「……はい。私、亜嵐さんと結婚……とりあえず婚約してもいいと、決めました」

 亜嵐さんの気持ちがわからないから、〝好き〟とは言えなかった。

 彼の口もとが緩み、私の手が握られる。

「ありがとう。一葉ちゃん。君には不自由をさせないよ」

「よろしくお願いします」

 頭を下げる私に、亜嵐さんは握った手を持ち上げ甲にキスを落とした。まるで王子様がお姫様にするような仕草で、鼓動がドクドク激しくなった。

 でも、亜嵐さんは大人だから、ここまで。

「祖母たちが喜ぶだろう。そうだ。東京へ戻ったら一緒に報告しよう」

「はいっ」

 触れてほしい物足りなさを覚えながらも、笑顔でうなずいた。

 東京へ戻った私たちは和歌子おばあ様を迎えにいき、レジデンス近くの中国レストランで夕食を取った。

 そこで結婚の承諾を報告すると、和歌子おばあ様は感涙した様子で、しばらくハンカチで目もとを抑えなければならなかった。

 喜んでもらえてうれしくて、私ももらい泣きをしそうだった。

「早速結納の準備をしなくてはね」

「そうだね。一葉ちゃんのご家族と相談をしよう。ところで、ご両親やおばあ様は気持ちを固めたのを知っている?」

「まだです。亜嵐さんに先に話したかったから」

 祖母は驚かずに喜んでくれると思うけど、父は納得してくれるのか少し心配だ。

「それなら、俺が一緒に――」

 以前、父が困惑気味だったと話していた。

「だ、大丈夫です。私が報告します。おばあちゃんもいるので」

「亜嵐、今日のところは一葉ちゃんに任せましょう。政美ちゃんもいるのだしね」

 和歌子おばあ様が口添えしてくれ、亜嵐さんは了承した。

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