婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
三、悲しい別れ
 亜嵐さんは隔月で二週間ほどイタリアへ赴く。彼に会えない期間は和歌子おばあ様と出かけて、本当の孫のように接してもらい、毎日が楽しく過ぎていった。

 三月六日は私の十九歳の誕生日。

 亜嵐さんと婚約してから五カ月が経とうとしていた。

「誕生日おめでとう」

 新宿の高級ホテルのフレンチレストランへ連れていってくれた。

 おいしいフレンチをいただいた後、極上の生クリームがたっぷりのケーキを食べていると、亜嵐さんがサーモンピンクのバラとカスミソウをあしらった花束と、赤いリボンのかかった細長い箱をプレゼントしてくれた。

「年の数で十九本だ。来年は二十本。毎年増やすよ」

「亜嵐さん、ありがとうございます」

 美しいバラの花束に、にっこり笑みを彼に向ける。

 花束を隣の席に置いてもうひとつのプレゼントの箱のリボンをほどき、箱を開ける。

「わっ、綺麗なネックレス……これは……」

 透明感のあるピンク色をした石がひと粒、華奢なゴールドチェーンにぶら下がっている。

「ピンクダイヤだ。普段つけてもらいたいから、小さい石を選んだ」

「小さくはないです」

 今日は左の薬指にエンゲージリングをはめているが、亜嵐さんや和歌子おばあ様と会うとき以外は身につけていない。

「リングは普段つけていなんだろう? 気兼ねなくつけられるようにもう少し小さいのを贈ろうかと思っている」

 エンゲージリングのダイヤモンドはグレードが最高級で、大きさも一カラットあり、大学生の自分がはめていてもおもちゃにしか見られないほどなのだ。

 ピンクダイヤの石はそれよりも半分ほどで、亜嵐さんが言う通り、普段使いができそうだ。

「そ、そんな何個も必要ないです」

 亜嵐さんは席を立ち、私のところへやって来る。そして、ピンクダイヤのネックレスを手にしてかがむ。

 美麗な顔がハーフアップにした耳に近づき、途端に心臓がドキドキと暴れだす。

 喉もとにゴールドチェーンがひんやりと触れる。

「これでよし」

 ネックレスをつけてくれた亜嵐さんは自分の席に戻った。

「ありがとうございます」

 いつになく亜嵐さんを身近に感じて、暴れる鼓動が治まらない。

「一葉ちゃん、君が俺のものである証拠が欲しいんだ」

「え?」

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