婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
「亜嵐に別れてもいいんじゃないかと説得していたのよ」

 予想はしていたけど実際そんな話になっていたなんて……。彼の返事がとても気になる。大声でわめき立てるような花音さんの口調に対して、亜嵐さんは静かな声色だった。

「……それで、彼は?」

「今はおばあ様の見送るのが大事だろうと。後日連絡をした話をしたけれど、忙しいからと話ができていないわ。だから一葉さんに会いにきたの。あなたから、このバカバカしい茶番劇を終わらせるべきだと亜嵐に言ってほしくて」

 私は亜嵐さんと別れられるの?

 胸がギュッと鷲掴みされたように痛みを覚えた。

「一葉さんはまだ十九歳でしょう。まだまだこれからいろいろな経験を積んで、好きな人を見つけるのがいいと思うの」

 亜嵐さんと別れた後を不意に想像してしまい、顔がゆがむ。

「亜嵐は優しいから、おばあ様の思いを叶えるためにあなたと一緒になるつもりだと思う。でも考えてみて? 結婚しても夫に愛されないで暮らすなんて嫌よね?」

 花音さんの言葉はもっともだ。

 結婚しても愛されないなんて、毎日が苦痛でしかないだろう。

「……亜嵐さんに話してみます」

「一葉さん、ありがとう。私が話したって言わないでね。私に憤って、意地でも結婚すると言い張るかもしれないから」

「……はい」

 花音さんは話し終えて気が楽になったのか、明るい表情だ。

 反対に私はどんよりした気分で神社を離れ、神楽坂駅へ花音さんを送った。

 アルバイト時間は終わっており、そのまま自宅の門扉を通り二階の自室へ入った。

 窓を閉めきった部屋はサウナのように暑いが、そんなのも気にならないほど意気消沈している私はベッドにゴロンと横になる。

『結婚しても夫に愛されないで暮らすなんて嫌よね?』

 花音さんの言葉が何度も何度も脳内で繰り返されている。

 亜嵐さんのためを思ったら、婚約解消が一番いいのかもしれない……。

 明日は亜嵐さんと上野にある博物館でデートする約束をしているから、これで最後にしよう。

 翌朝、目を覚ましても、どんよりする気持ちは変わっていなかった。

 今日一日楽しんで帰り際に婚約解消を申し出ようと、昨晩決心した。それを実行するのだ。

 亜嵐さんは午前中に用事があり、迎えにくるのは十三時。

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