婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
 美麗な顔が近く、先ほどの不安で打ち鳴らしていた鼓動は、今になって緊張でドキドキしている。

「私に触れたい気持ちを?」

「そうだ。そんなに確認したいのか? 大人をからかう悪い子だな」

 いつもは爽やかな亜嵐さんの雰囲気が、今は違う。妖艶に微笑みを浮かべて、私の後頭部に置いた手を自分の方へ動かした。

 次の瞬間、亜嵐さんの唇が私の唇に重なった。

 ええっ……!

 私のファーストキスだ。ドラマや映画、友達の話では目を閉じているのに、私は驚いて大きく見開いている。

 優しく唇を食むようにして重ねた亜嵐さんは、ほんの少しだけ顔を離した。

「そんなに驚くことか?」

「も、もちろんです……」

 でも、ただ触れたかっただけ?

 愛しているとは亜嵐さんは言ってないから、キスされたからといって喜べない。

 気持ちが落ちていき、視線を自分の膝へ移す。

「一葉ちゃん、一葉? 俺を見て」

 彼の口から自分の名前が呼び捨てにされ、胸の奥がキュンとなる。

 私の顎に亜嵐さんの長い指がかかり、目と目を合わせられた。

「俺がこんなにも一葉を大事にしていたのが、わからなかったのか?」

「それは……和歌子おばあ様のためじゃ……」

「一葉が未成年だからだ。婚約者でも成人するまでは手を出せない。祖母のためではなく、一葉のためだ。よく聞いて。一葉、君を愛している」

 頬にかかる髪の毛を優しく払い、亜嵐さんは麗しく笑みを浮かべる。

「わ、私を愛している?」

「そんなに不思議か? 祖母の計画は来日する一年前からで、君のおばあ様から写真を送られてきたのが発端だ。屈託なく笑っている君の写真に惹かれた。だから祖母の驚く話も受け入れた」

 来日する一年も前から……。

「この一年間、一葉だけを見てきた。祖母への気持ちや、優しさ、俺を気遣ってくれる一葉が愛おしい」

 亜嵐さんは私の背に腕を置いて抱きしめた。

「一葉、君が俺に抱いている気持ちは〝好き〟だけか?」

 亜嵐さんの腕の中で頭を左右に振る。

「愛しています。このリビングに姿を見せたときから、信じられないくらい素敵で、男気があって。亜嵐さんに比べたら私なんて子どもで……だからこそ、ずっとふさわしくないって思っていたんです」

「そんなこと思わなくていい。突然婚約解消したいと言ったのは、花音のせいじゃないか?」

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