婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
 かぼちゃのスープが運ばれてきて、亜嵐さんは食事をするように促す。

「祖母が嫁いだのはイタリアの西部にあるフェラーラという街にある貴族の長男で、十年ほどは慣れない土地やしきたりで大変だったようだ。祖母は本が好きで、ある日自分で書けるのではないかと思い立ったらしい」

 え……? 和歌子おばあ様が嫁いだ先は貴族だったの?

 亜嵐さんの話はどこかファンタジックに聞こえる。だけど、事実あったこと。

「祖母は書いてローマの出版社に原稿を出すと、評価されて書籍になったんだ」

「和歌子おばあ様が書かれた本、気になります」

 彼は麗しく笑みを浮かべる。

「一冊だけ家にある。ただ、イタリア語だから読むのは難しいな」

「辞書を引いても……?」

「勉強にもなるからゆっくり翻訳機を使って読むといい。後でプレゼントするよ」

「え? 大事な本ですから、お借りするだけで充分です」

 亜嵐さんは首を左右にゆっくり振る。

「祖母は一葉に渡すつもりだったんだ。だから受け取ってほしい」

「和歌子おばあ様……」

 また涙が出てきそうで、運ばれてきていたおしゃれな魚介類の前菜を急いで口にする。

 酸味の効いたソースがかかった前菜を咀嚼していると、さっき質問しようとしたのを思い出す。

「亜嵐さん、和歌子おばあ様が貴族の長男に嫁いだって」

「ああ。今では貴族制度は廃止になっているから違うが、城は所有している」

 お城っ!? 

 私は開いた口が塞がらない。

 亜嵐さんはおかしそうに「クッ」と笑い、食べるように勧める。

「そんなすごい家系だったなんて、両親が聞いたら腰を抜かしそうです」

 祖母はひと言も匂わせなかったから、和歌子おばあ様が話していなかったに違いない。

「気後れする必要はないよ。城は兄が継ぐし、俺は日本で暮らす心づもりだ」

 花音さんの会話を思い出す。

 亜嵐さんは家族や会社のために尽くしているのに、継ぐのは長男の豪さんだと。

 お城を持ちミラノで暮らすなんて次元の違う話で、亜嵐さんが日本で暮らす心づもりだと言ってくれて安堵する。

 メイン料理からデザートまで、外のライトアップされた景色を見ながら思う存分楽しんだ。

 クルーズ船を降りて、今晩宿泊する高級ホテルのロイヤルスイートルームに戻ってきた。

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