婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
 私はその神社の前を通過するだけで祈願したことはないが、真美は事あるごとに足を運んでいるらしい。

 神社の中へ入ると、同年代の女性のグループが目立つ。その列に並び、順番が来て賽銭箱の前に真美と並んで立つ。私は手を合わせながら、亜嵐さんと出会えた幸せを感謝した。

「ちょっと書いてくる」

 真美が指さした方向に、祈願する短冊のようなものが台に置かれていて、数人がなにかをしたためている。

「あ、一葉は祈願しなくていいの?」

「え? なにを?」

 順風満帆の私はなにも考えつかない。

「だって、亜嵐さんとのことしかないでしょ」

「大丈夫。うまくいってるから」

「うまく……? ってことは……あ! そうか! ちょっとやだ、言ってよ! 」

 真美はようやく把握し、両手をパチンと打った。こないだ誕生日のお祝いで真美はケーキをごちそうしてくれたけれど、彼と別れたばかりで落ち込んでいて、亜嵐さんとのことは言い出せずにいた。

「もうっ、後でちゃんと教えてよね」

 私が苦笑いを浮かべながらうなずくのを見て、彼女は台の方へ行った。

 神社から神楽坂へ戻り、人気のスープカレーのお店へ入った。大きな骨付きのチキンと二十品目の野菜が食べられる。

 数種類のランチメニューの中からオーダーして、料理がくるのを待つ間、真美に急かされて横浜で亜嵐さんと過ごした日についてかいつまんで話した。

「……スケールが違いすぎる」

 彼女があぜんとしているのは、クルーズ船を貸しきりにした話だ。

「うん……そうだよね」

「はぁぁぁ~、一葉がうらやましすぎる。それにあのブランドをいくつプレゼントされたって?」

「え……っと、十個……かな」

 シーン別にバッグを三個、財布、スニーカーとパンプス、リングにネックレス、ピアスまで。バッグの持ち手に巻く細いシルエットのスカーフなどもあって、とても豪華な誕生日プレゼントだった。

 普段使うのは財布だけにして、ほかは彼の前でだけにしている。

 大学生活には必要はないから。

 その後、和歌子おばあ様の書籍もプレゼントされて、今のところ翻訳機を使い二ページの冒頭を読んだ。

「なんて甘い婚約者なのっ。めちゃくちゃイケメンだし、一葉は前世で徳を積んだのね」

「徳を積んだって……」

 真美の言い方がおかしくて笑う。

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