婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
「だって、フォンターナ・モビーレの日本支社長夫人になるのよ? セレブよ。一生お金に困らない生活ができるなんてうらやましいもの」

「私は亜嵐さんがどんな仕事をしていてもいいの。お金だって普通に生活できれば」

「一葉ったら、欲のないところは小さい頃から変わらないね。いつもおやつをもらうと半分以上友達にあげていたでしょ。私は欲深いからダメなのかな」

 そんな幼少期の話を持ち出す真美に、私は声を出して笑った。

 真美の言葉通り私は本当に幸せで、ふとしたときになにか嫌なことが起こらないか心配に駆られるほどだ。

 そんな思いを抱きながらデートを重ね、亜嵐さんに愛される日々が続いた。そして二十一歳になる誕生日の三日前、珍しく亜嵐さんが平日の午後に仕事の休みが取れたというので、春休み中の私はアルバイトの後に彼の家へ向かった。

 レジデンスのソファに並んで座り、イタリア語を習う。

「なかなか発音がいい」

「本当ですか?」

「ああ。一葉がイタリア語に興味を持ってくれてうれしいよ」

 もう少し経ったら食事に出ようと計画を立てていた、そんなときだった。

 ふいに鳴った電話に出た彼の顔から見る見るうちに血の気が引いていくのを、背筋に寒気を覚えながら私は見つめていた。

 早口のイタリア語で、亜嵐さんの表情から悪いことに違いないと確信した。

 通話を切った彼は、電話の内容を私に説明する。

 現在ハンガリーにいる豪さんが事故に遭ったという。

 数日後に開催されるF1サーキットの試運転時、豪さんの乗ったF1カーが制御不能になり、壁に激突したのだ。

 燃え盛る車から豪さんは救い出され、病院へ救急搬送された。

「一葉、すまない。フライトの手配がつき次第、これから行ってくる。たしか夜便にヨーロッパへ飛ぶフライトがある」

「もちろんです。気をつけて行ってきてください。時間があったらフライトをメッセージで送ってください。あと、様子も。お兄様が軽症だといいのですが……」

 ソファから立ち上がり、そばにあったバッグとコートを手にする。

「ああ。ありがとう。貸して」

 亜嵐さんはコートを羽織らせてくれ、ぎゅっと抱きしめられた私はレジデンスを後にした。

 電車に乗り少しして、亜嵐さんからスマホにメッセージが送られてきた。

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