婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
《君の気持ちは十分わかっている。主治医と相談して、動かせるようになったらミラノの病院へ転院させる予定だ。仕事もあるから、二日後本社へ行ってくる。帰国は……いつになるか、まだはっきり言えない》

 電話の向こうの亜嵐さんは言い淀む。

 和歌子おばあ様のときはかなり前から覚悟していたようだったから、動揺していなかったように見受けられたが、今回は予測できない事態で狼狽している様子が伝わってくる。

「はっきりわからなくてもいいです。今はご家族とお仕事を考えてください」

 亜嵐さんに会えなくて寂しい。でもそれを口にしたら、優しい亜嵐さんを困らせる。

「ありがとう。明日が二十一歳の誕生日なのに、祝えなくてすまない。戻ったらお祝いしよう」

「はいっ、気にしないでください。では、お兄様が目を覚ますように祈っています」

 忙しい亜嵐さんの時間を取らせないように、私から話を終わらせて通話を切った。

 スマホをベッドの枕の横に置いて、ゴロンと仰向けになる。

 大変だな……亜嵐さん。私がなにか手伝えたらいいのに……。

 婚約してからずっと亜嵐さんに合わせて生活していたので、大学に通学しているときならまだしも、春休みの今は家業のアルバイト以外とくに予定がなく、週二回のイタリア語教室に通うくらいだ。

 翌日、家業のアルバイトを終わらせて自宅へ戻ると、祖母が目じりを下げながらバラの花束を抱えて玄関に現れた。

「亜嵐さんから花束が届いているよ」

「え……亜嵐さんから……」

 忙殺されているのに、手配をしてくれたんだ。

 手渡された花束を受け取り言葉も出ずに抱きしめていると、祖母が声を出して笑う。

「おや、感激しているのかい。お兄さんの事故で大変なのに、誕生日まで気にかけてくれるなんて、本当にいい男だよ」

「……うん。上で写真撮ったら花瓶に入れるね」

「ああ。そうしなさい」

 祖母はニコニコして自分の部屋へ去っていく。

 和歌子おばあ様が亡くなって一年半以上が経ち、祖母はようやく元気を取り戻しつつある。最近はときどき町会の友達と、気晴らしにお茶やカラオケに行って楽しんでいるようだ。

 二階の自室で花束の写真を撮って、届いたお礼をスマホの彼宛のメッセージに打ち込み、画像とともに送る。

 二日後に亜嵐さんからメッセージが来た。

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