婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
【一葉、二十一歳おめでとう。花の写真だけじゃ寂しいな。一葉の顔が見たい】

 そう書かれてあって、胸がキュンと切なくなった。

 返事を期待していたわけじゃないけど、すぐにもらえなくて落ち込んでいた。でもこのメッセージに、私の心が浮き立つ。

 亜嵐さんに無性に会いたくて声が聞きたかった。

 彼から次にメッセージが来たのはその日から一週間後。

 ハンガリー首都ブダペストの病院と、ミラノの本社を行き来していると書かれていた。

 お兄様のもとにはお母様と花音さんもいるらしい。それを知ってホッとした。亜嵐さんは仕事を放り出せないから、ふたりが看病していれば負担が軽減されるだろう。

 亜嵐さんも体に気をつけてくださいと、メッセージを送った。

 明日から四月。

 私は大学四年生になる。亜嵐さんを支えられる妻になろうと、家族や彼とも相談して決めたので、就職活動はしていない。

 四年生の最終学年では、単位を取ったらほとんど大学へ行かなくなる。その時期を利用してイタリア語はもちろん、料理教室にも通うつもりで探していた。

 新学期が始まって二日後の夜、亜嵐さんから電話がかかってきた。久しぶりの彼の声に、うれしくて口もとが緩んでくる。

《一葉、連絡ができなくてすまなかった》

「亜嵐さん、謝らないでください。今は大変なんですから、私よりもお兄様を」

《本当に君はかわいい。愛している。早く会いたいよ》

 亜嵐さんの甘い言葉は耳をくすぐる。

《明日、ミラノからそっちへ向かうが、羽田到着は明後日の十八時過ぎになる》

「本当ですかっ!」

 思いがけない吉報に、ベッドに座っていた私はすっくと立った。

 亜嵐さんが帰ってくる!

 スマホを耳にあてる顔に笑みがこぼれる。

《ああ。だが、緊急の仕事を片づけたらまたミラノへ戻らなくてはならないんだ》

 喜んだのもつかの間、気持ちがどんと落とされた。

「また……そっちへ……」

 つい沈んだ声を出してしまい、慌てて口を開く。

「仕方ないです! お兄様の病状は……?」

《まだ意識を取り戻していないんだ。それでブダペストの病院からミラノの病院へ移す手はずになったんだ》

「移動は大変そうですが」

《ああ。主治医と看護師に同行してもらい、細心の注意を払って車と列車で移動させるんだ》

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