婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
 国を移動するなんて、大がかりになりそうだと想像できる。

「ミラノのお医者さまに診ていただければ、病状はよくなるんですか……?」

 そう願わずにはいられない。

《どうかな……このまま意識を取り戻さなければ、最悪を覚悟しなければならなくなるんだ》

 驚きで、私の喉の奥からひゅっと息を吸い込む音がした。

「そんな……」

《一葉、あまり考えすぎないように。じゃあ、また連絡する》

「はい」

 通話が切れ、私の口から重いため息が漏れる。

 帰国するけれど、日本支社の緊急の仕事をこなさなくてはならないのだから、会えるかどうか……。そしてお兄様の移動に合わせて亜嵐さんは再び向かうのだ。

 寂しいけれど、家族の一大事だから優先しなければならない。

 亜嵐さんの帰国日。朝から浮き立つ気持ちが続き、空港へ行くつもりではなかったのに、気づけば夕方になると出かける準備をしていた。

 顔を見て帰るだけ。そう自分に言い聞かせ続ける。

 電車を乗り継いで、羽田空港の到着ロビーに着いたのは十八時。

 顔だけ見たいからと、亜嵐さんのスマホにメッセージを送った。

 到着した時点で気づいてくれますように。

 フライト情報の掲示板で、亜嵐さんの乗った旅客機が十分早く無事に到着したのを確認した。

 それから五分ほどが経ち、亜嵐さんからメッセージが入った。

【一葉、来てくれたのか。ありがとう。あと十分ほどで会える】

 亜嵐さん……。

 メッセージを見てくれたことがうれしくて、胸をなで下ろす。

 待っている間、胸の高鳴りはやまずに落ち着かない。

 フライトから降りてきた人々がちらほら出てきて、固唾を飲んで見つめていた私の目に、颯爽と歩く亜嵐さんが映った。

 亜嵐さんも私を認めて、口もとに笑みを浮かべて近づいてきた。

「一葉!」

 彼はキャリーケースを持っていない。手にしているのは黒革のビジネスバッグに小さなショッパーバッグという、海外から戻ってきたようには見えないくらい身軽だ。

 きちんとスーツを着こなした亜嵐さんに、胸がドキドキ暴れてくる。

「おかえりなさい」

 亜嵐さんは人目もはばからず私を抱きしめた。彼は外国で育ったからあたり前でも、私は人前で抱きしめられるのは初めてで、顔から火が出そうなほど恥ずかしい。

「あ、亜嵐さん、人が……」

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