婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
 ロビーには豪華なシャンデリアやくつろぐスペースなどもあり、コンシェルジュの前を通り、エレベーターホールでやって来たエレベーターに乗り込んだ。

「すごいマンションだねぇ」

 高速でどんどん上昇していく箱の中で、祖母はちょっと不安そうだ。こんなに高いところへ来た経験はないのだろう。

「エレベーターもあっという間だね」

 その言葉の通り、エレベーターはすぐにポーンと音で到着を知らせた。

 床がグレーでドアが黒のスタイリッシュなインテリアだ。

 いくつかあるドアを通り過ぎたところで、玄関が開いてラベンダー色のワンピースを身につけた女性が顔を出した。

「政美ちゃん!」

 綺麗な白髪をシニヨンにしている女性は、少女のように手を振る。

「和歌子ちゃん!」

 草履の足で小走りになる祖母は、和歌子さんのもとへ行き抱き合う。

 祖母のこんなに楽しそうな様子を見るのは初めてかもしれない。

 後からついていき、ひとしきり再会を喜び合う祖母たちを待った。

「本当に会えるなんてうれしいわ。外は暑かったでしょう。どうぞどうぞ、お孫さんの一葉ちゃんね」

 祖母を招き入れながら、和歌子さんは私に笑みを向けた。

「あ、はい。はじめまして。一葉です」

「政美ちゃん、綺麗なお嬢さんね」

 褒められた祖母はまんざらでもない顔になる。

「あの、私はここで。おばあちゃん、積もり積もった話があるでしょう? どこかで時間をつぶしているから、終わったら連絡して」

 持っていた手土産を祖母に差し出す。

 すると、和歌子さんが驚いた声を出す。

「まあ、邪魔じゃないわよ。ひとりで時間をつぶすなんてとんでもない。一葉ちゃんとお話しできるのを楽しみにしていたのよ。私たちの話で退屈になったら映画でもどうかしら? ブルーレイがたくさんあるのよ。どうぞ。お入りになって」

 和歌子さんは私を促し、うしろに回ってドアを閉めた。

 祖母たちの話が進んで邪魔になったら、買い物を理由に外に出ればいいか。

 スリッパに履き替え、廊下を進んだ先は、三十畳以上はありそうな和モダンのインテリアが素敵な空間だった。

 六人掛けの黒っぽい一枚板のテーブルセット、階段のようにだんだんになっているチェスト。その上には生け花が飾られている。

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