婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
 部屋の半分ほどに、着物の帯のような和のパーティションがあって仕切られていた。

「和歌子ちゃんらしい、素晴らしい、素敵なお部屋だねぇ~」

 祖母が褒めると、和歌子さんは「孫がやってくれたのよ」と言って笑顔になる。

 お孫さんかぁ。素敵なセンスの持ち主なんだろうな。

 私は頭の中で美しい女性を想像した。

 一枚板のテーブルには三人分のプレースマット、その上にカトラリーが置かれている。

「お昼の時間にお呼びしたのは、私の手料理を食べていただきたかったのよ。一葉ちゃんは、イタリア料理はお好きかしら?」

「はい。イタリア料理といってもピザやパスタくらいなんですが」

「正直でかわいいわ。私もイタリアへ行くまではそうだったわ。政美ちゃん、一葉ちゃん、おかけになって」

 椅子に座るように勧められるが、運ぶくらいならできると、私はお手伝いを買って出た。

 トマトとアボカドのガスパチョや、ルッコラとチーズのサラダ、仔牛のレバーと玉ねぎ煮込み、冷製カッペリーニなどがひとり分ずつプレースマットの上に用意された。

「おふたりのお口に合うか心配だけど」

「和歌子ちゃん、とってもおいしそうよ。お昼にこんなお料理をいただけるなんて贅沢だわ。ね、一葉」

 祖母は料理に見惚れていた私に声をかける。

「本当にすごいです。いただきます!」

 レストランで食べるような繊細な味で、たくさん作ってくれた料理はどんどん食べ進められる。和食ばかりで滅多にこういった料理を口にしない祖母も、おいしくて満足している様子だった。

 ふたりは昔話や、和歌子さんのイタリアでの生活などの話に花を咲かせている。

 デザートは近所にあるという有名パティスリー店のケーキ。ルビーチョコがけの丸いフォルムでかわいらしく、そのおいしさに目を見張った。

 アールグレイのアイスティーで口の中がさっぱりして、至れり尽くせりの和歌子さんのおもてなし術を尊敬する。

「一葉ちゃんは女子大の一年生だと聞いているけれど、なにを専攻しているの?」

「文学部の日本文学科です」

 小さい頃から本が好きで、書店とか図書館にいるのが大好きだった。将来は図書館司書になりたいと思っている。

「そう。本が好きなのかしら? 大学生活は楽しい? ボーイフレンドはいらっしゃる?」

< 7 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop