わがままシュガー
「なに、言って……」
ゆっくりと登るゴンドラの中、夕焼けなんて見る余裕もない私の瞳は、ただ佐藤を見つめる。
嫌だ、離れるわけじゃないとしても、怖い。
二人きりになる時間まで作って、佐藤は何を……。
風に揺られるゴンドラが、大きく揺れたわけではなかったと思う。
ただ、温かい指先が私を囲うように、両手に乗せられて。
近付いた顔がすぐ近くで「ごめん」と、鼓膜を震わせるのを聞いて。
頬が、頬をこすった。
酷く近い顔に、頭を引くけれど、逃げ場なんてなくて。
ドクドク、沸き立つように心臓が、頭が、体が熱くなって、緊張してきて。
「のどか」
心地の良い響く声が、鼓膜を優しく震わせる。
時間が止まったかのように、動けなかった。
「拒否る時間は、たっぷりとあったんだから。文句言うなよ」
ゆるりと手の甲を撫でられ、正面に回って見えるのは、いつもより近い、佐藤の顔。
いつもと違う……獲物を狙うような真剣な瞳に、私はスッと、何かを理解した。
『あぁ、狙われているのは”私”だ』
自分から、瞼を閉じるとは思っていなかった。
瞼の奥のオレンジ色の光が陰り、柔らかな感触が唇を食む。