獅子組と私
「お前さぁ~!俺達もいること忘れてたの?」
飛鳥にナイフが刺さる寸前で、道彦が男の手首を掴み言った。

「やっぱ、バカだね!はい、ナイフは危ないから没収!」
滉二が男から、ナイフを取り上げながら言った。

「てか、丸腰の相手にナイフで向かうって……弱い奴のする事だよ?
ちなみに!俺達のキングは、今までで“一度も”武器を持ったことないんだよ?
いつも素手だったなぁ」
一朗が男の前にしゃがみこんで、髪の毛を掴み言う。

「フフ…だってぇ、本当に強い男は“拳で戦う”ってある人が教えてくれたから!」
飛鳥が微笑み、哲士を想い浮かべた。

「哲士さん?」
「え?うん」
「このピアスの元・持ち主」
椎那が飛鳥のピアスに触れた。

「え?このピアスのこと知ってるの?」
「琴子ちゃんが言ってたの。
哲士さんの形見で、キングの証だって。
きっと、みんなにとって“大切な人”なんでしょ?」

「そうだね……」
心なしか、飛鳥の様子がおかしい。
道彦達も、表情が暗くなった。

「え?飛鳥くん…?みんな、どうしたの?」

「哲士は、僕達が殺したんだよ………!!」

元々冷たい雰囲気だった、バー内。
そこが飛鳥の言葉で、更に冷たく凍った。

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屋敷に帰ってきた一行。

「飛鳥くん、ゆっくりでいいからね!
大丈夫だよ、どんなことでも受け止めるよ!」
椎那が微笑み、飛鳥の手を包み込んだ。
そして片方の手で、飛鳥の頭を撫でた。

「うん……」
飛鳥は道彦達に目伏せをして、大きく深呼吸をした。

「本木 哲士は、僕達四人の憧れの男だったんだ。
僕達に喧嘩を教えたくれた人なんだよ。
哲士は本当は争いが嫌いな人で、性格も寛大で普段は優しい穏やかな人でさ、でもキレると誰にも止められない程の冷酷さがあって、それでいて喧嘩がほんと強くて……資産家の息子の僕達に、周りは腫れ物扱いだった中……本気で向かって叱ってくれたのも、哲士だったんだぁ。
僕達は、兄ちゃんみたいに慕ってたんだ」

「へぇー」
「でも、哲士は二十歳の誕生日に殺されたんだ……」
「え……」

「僕達を守って、死んだんだ━━━━━」

「え?」
「あの日━━━━━━━」
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