獅子組と私
その日はそのまま、屋敷に帰った椎那。

バスルームに直行し、身体を洗う。
何度も………
何度も………
何度も………
村部に付けられたキスマークをこする。

「助けて……」
涙が溢れてくる。

「飛鳥く…助けて……」

それから飛鳥達が、大学から帰ってくる。
「椎那~!!ただいまぁ!どこー?」

洗面台の鏡を見ながら椎那は、自身の頬をパシンと叩いた。
「大丈夫。普通通り出きる!大丈夫……!」
自分に言い聞かせて、洗面所を出た。

「飛鳥くん、おかえりなさい!」
椎那はできる限り笑顔を作り言った。
「椎那?どうしたの?元気ない」
「え?そう?」
「なんか、無理して笑ってるよな?」
道彦も椎那の顔を覗き込み言った。

「そんなことないよぉ~」
「なんなの?椎那ちゃん、言ってよ!
俺達が、すぐに解決してあげるよ?」
滉二も微笑み言った。

「ほんとに、何もないよ!」
「椎那ちゃん、バレてないとでも思ってる?」
「え……?」
一朗の言葉に、ビクッと身体を震わせた。

「椎那、今…どんな顔してるか教えてあげる」
飛鳥が椎那の頬を包み込んで言った。
「え?」
「苦しい……飛鳥くん、助けて……ってそんな顔してるよ」
「そんな……ほんとに、そんなこと……」

「道彦~!!お待たせ~」
そこへ清美と琴子が屋敷にやってきた。
「ちょっ…玄関で何やってんの!?」
琴子が呆れながら言った。

「どうしたの?
友達連れてきたんだけど、なんかダメだった?」
清美が遠慮がちに言う。

「あ、ううん!大丈夫だよ!
みんな、あがって!」

「お邪魔しまーす!!」
不服そうな飛鳥達を置いて、清美達をリビングに通した椎那だった。


みんなで酒を飲んで楽しんでいたのだが、清美の友人が酔っぱらい飛鳥に抱きついていた。

どうして、こんなに苦しい気持ちの時に、こんな苦しくなる光景を見なければいけないのだろう。

わかっている。
みんなかなり飲んでいて、しかも酔っぱらった故のふざけだと。

「私、ちょっと…お手洗い……」
「椎那?」
「椎那、どうしたの?」

「ん?何?」
「なんか、泣きそう…」
清美が心配そうに、顔を覗き込んだ。
「私が、やめさせようか?」
琴子が言う。

「やめて!雰囲気悪くなるし!
それに、ちょっとしたヤキモチ(笑)
だから気にしないで?」
そう言って、リビングを出た。
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