月のひかり
可愛いとは思っている。だが、ずいぶん長い年月妹みたいな存在と認識してきた相手だから、気持ちに変化が生じていることはわかっても、その比率が測りづらかった。……長年の「妹」認識と、一人の女の子として考える瞬間の。
時に、顔を見たい思いに駆られることもあるのだが、それだけのために実家に帰るのはさすがに馬鹿げている気がする。紗綾に何か思うところがあるのだとしたら、余計な気を遣わせたくないし──そして、顔を合わせるのがいまだにどうも気まずく、少しばかり怖くもあるのだった。
そのまま、さらに何日か過ぎた頃。
めずらしく終業時間で上がれたその日、会社の近くで偶然、紗綾を見かけた。
彼女は一人ではなかった。前のように、大勢と連れ立っているのでもなく、同じ年頃の学生らしき男と一緒に歩いている──肩に腕を回された格好で。
そうすることに慣れたふうの男子学生に比べ、紗綾の方はぎこちない様子ではあったが、楽しそうに笑い合っている。
大通りの同じ側をすれ違う状況だったのだが、孝がとっさに近くのコンビニに隠れたため、二人は気づかないままに通り過ぎていった。
本を探すふりをしつつ、コンビニの前を通る瞬間の二人の様子をうかがう。男の顔はよく見えなかったが、紗綾は、今まで見た中で一番濃い化粧をしていた。それがひどく不自然に思えた。
……だが、男女交際に不慣れな娘が男と付き合うとなれば、時には不自然なくらいに装ったりするものかも知れない。
そう結論づけると、いくらかの憂鬱や失望は覚えたが、納得の思いもそれなりに感じた。
やはり紗綾に変化が起こっていたのだということと、自分自身の気持ちに対する納得。正直、ショックは小さくないが、ある意味では落ち着いているとも言えた。何かしら決着がついた気分で。
とっさに隠れたのは反射的な行動で別に深い意味はない。二人が楽しそうにしていたから、ちょっと声をかけづらい気がした、それだけだ。
……気が抜けた、という表現がたぶん一番近い。
あれこれと、時にはものすごく真面目に思い悩んでいたことが少しばかり、否、わりと無駄だったような気がしてくる。だが、無駄でよかったのかもと思った。とっくに見えなくなった、二人の姿を思い浮かべながら。
盆休みが過ぎると、二学期向け商品の出荷を中心とした仕事が増える。加えて、春に次いで異動の多い時期でもあり、社内外で引き継ぎが頻発する。
営業部でも数名が他部署、あるいは別の営業所への異動が決まっており、孝の班でも一人が入れ替わる。ただし実質的な異動は九月一日に同時に行なわれるため、暫定的な引き継ぎは仕事の一部が重なっていた孝に任されていた。