死ぬ前にしたい1のコト
願(欲)望の実現?
「あー、ほら、もう。そんなふらふらで、歩いて帰れるわけないでしょ。タクシー拾ってあげるから」
居酒屋から出て、千鳥足で道路に出ようとする私の手首をくんっと引いて、ユウが呆れ声で言った。
「ありがと。ほんっと、優しいなー、ユウは。こんなダメダメな私に優しくしてくれるの、ユウくらいだよ」
もう片方の手を上げてタクシーを止めてくれるなんて、どんだけ優しい同僚なの。
訳の分からん愚痴に散々付き合ってくれただけでも有り難いのに、もう拝みたい。
「そう卑屈にならなくても……だから、寧ろそういうとこが問題……って、道端でいきなり拝むな! 」
「だって……御光が射してる……」
「タクシーのライトなんですけど。あー、馬鹿が酔っぱらうと始末に負えないわ。ほーら、さっさと乗る! 」
自動で開いたタクシーのドアをがっと押し開くと、大きな荷物でも積み込むように無理やり私を車内に詰め込んだ。
「じゃあ、月曜日。ちゃんと酔い冷まして来なよ。それまで休肝日」
「……行きたくない……」
「駄々っ子か。……知ってる。イチはサボったりしないで来るって。だから、そう凹みなさんな。ね? 」
ユウがいるから、出社できる。
入社して中堅社員になってからも、パッとしないどころか使い物にならない私が辞めずにいるのは、本当にユウのおかげ。
「……いつもごめんね。ありがと」
「本当にね。……でも、いいんだって。じゃ、おやすみ」
申し訳なくて、恥ずかしくて、自分がちっぽけすぎてほろりと涙が頬を掠める。
ぐでんぐでんに酔っぱらっているからか、拭うのすらかなり遅れて、それに気づいた運転士さんすら行き先を訊ねずに待ってくれている。
「あ……すみません、やっぱり降ります! 」
ユウは……いない。
もう週末の人混みに紛れ、背中を見つけることができなかった。
よかった。
見つかったら、またタクシーに押し込まれてしまう。
本当の本当にその優しさが嬉しいのに、今はどうしても歩きたかった。
何だろうな。
自分が惨めな時って、とことん惨めに転落してしまいたくなる。……って。
(……いつもか)
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