死ぬ前にしたい1のコト
・・・
(…………………で、これ、どういうこと……………? )
あれから寝て起きた後の、自分の目が信じられない。
泣きながらふらふら歩いたのは、一体どこまてだったんだろう――ひとり、だったのは?
そして、ベッドにいるこれは一体……。
「何事……!? 」
それほど困ってたかって言われると、本当にとんでもなくお恥ずかしながら、「はい、困ってました」としか答えようがない。
でも、だからと言って、こんなことが現実に起きるわけがない。
酔ってたとはいえ、見知らぬ男を家に連れ込むなんてできるタイプじゃない。
この歳になってまだ恥じらうことかあるのかと言われようと、あるものはあるのだ。
だって、私はまだその一つも経験したことがないんだから。第一、そこに寝っ転がってすやすや寝息を立てているのは――……。
――若い、男の子。
(……まずい……まずすぎる……)
眠っているからか、私には子供にしか見えない。もしや、学生、では。
(犯罪……!! )
服は……互いに着てる。セーフ……。
(……のわけない! 完璧アウトでしょ!! )
まさか、いくら困った女が酔ってたからって、無理やり拐うとは思えないけど。
子供とはいえ、男性といえるくらいには大人の体格の子が無抵抗でいないはずだけど。
何にせよ、子供を部屋に上げるだけで十分すぎるほど罪だ。
記憶にないけど、それで許されるはずがない。
――終わった。
私の人生。
何も始まらず、こんなかたちで終わりを迎えるなんて。
「ごめん、ユウ……」
月曜日、きっといけない。
私が逮捕されたら、友達じゃないって言っていいからね。
今までありが――。
「それ、昨日一緒にいたやつ? 」
「……え」
喋った。
「だから、ユウってやつ。昨日一緒にいた男? 」
起きた。
「え、あ、の」
そして、なぜに。
「なにそれ。妬けるんですけど。朝イチで、俺じゃなく他の男の名前呼ぶとか。おねーさん、悪い子じゃん」
後ろから抱きついてくるー!?
「一回とはいえ、あんな夜を過ごしたのに。そこは、俺のこと呼ぶべきだよね? でしょ」
「そ、そんなこと言われても、だ、だって」
近い近い近い……!!
と言うより、距離なんてほぼゼロ。
隙間もなくぴったりとくっついて、首の両側から腕を回されて。
身を捩る間もなく、くんっと引かれて後ろにいる彼の胸にトン……と背中がぶつかった。
「だって? 」
「だって……」
――名前、知らないんですけど。
口から出そうになった言葉は、さすがに声にすることはできなかった。
「あんな夜」がどんなものだったかちっとも記憶にないし、絶対からかわれてるだけだとは言え。
絶っっ対、ただ一緒に眠ってただけだとは言え。
この子が部屋にいることだけは確かで、それどころか同じベッドにいる相手に、「どちら様? 」なんて尋ねる勇気はない。
「ぷっ……」
予想どおり吹き出したのに、イラッとしなかったわけじゃない。
怒ることもつっこむこともできなかったのは、吐き出された息がくしゃくしゃの髪を擽って、ついピクッと震えてしまったから。
「あ、そういや、名乗ってなかったんだっけ。俺、辻村実。これからよろしくね、一華さん」