死ぬ前にしたい1のコト






・・・





『あいつは、ずっと一華さんと一緒にいて、いろんな顔見て……好きで。一華さん歴長くて、そういう意味じゃ、先輩だけど』


なに、その歴。
すぐさま突っ込もうと思ったのに、ちっとも唇が動いてくれなかった。


『でも、俺はそんなの嫌だから。自分から対象外に入るのなんか、理解はできても共感はできない。だから、攻めてく』


――もっと俺のこと見て。好きになって。


唇が、いつの間にか耳にやっぱり触れてた。
囁かれたというより、直接耳奥に流し込まれるような生々しさ。
ねだるような可愛い口調が、余計にどこか毒々しい。
ほんの少し前に聞いた台詞と、これも同じだったのに。今度は、そんなふうに感じてしまう。
ひとり、部屋に籠っていてもまだ、こうして脳内に流れ込んでくるから。


『先輩』


その呼び掛けが痛い。
あの頃のユウは、まだ「女に興味ない」なんて言ってなかったと思う。
その後仲良くなって、タメ口になって、そう――『俺』『お前』を使ってた。
それが言葉遣いが柔らかくなったのは、絶対にあれ――私のせいだ。
私がここまで拗らせることになった、あれから。


(ユウ、ごめんね)


気がつかなくて、その優しさに甘えて、頼りまくって。
こんなかたちで知ってしまって、応えられるかも分からない。

実くんに会う前に知ってたら、何か変わっててんだろうか。
時間をくれようとする背中を、すぐに追いかけてた?


「……(さむ)


ベッドの上で寝返りを打っても、きゅっと布団にしがみついても、なかなか身体が温まってくれない。


「あ……」


どうして、思っちゃったんだろう。
――リビングは、もっと寒いよね、なんて。
今、このタイミングで。
あんなことがあった日の、こんな深夜に。


『先輩』


その呼び方を考えてたばかりで。


(……酷い言い訳)


ネットで天気予報見て、「この秋一番の冷え込み」なんて文字にほっとして。

ドアを開けたがるの、最低。





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