死ぬ前にしたい1のコト
リビングは、やっぱり冷えていた。
エアコンつけてていいのに、随分遠慮がちなヒモもいたものだ。
ソファからも、薄手のブランケットからもはみ出した長い手足が寒そう。
ここ数日、ううん、実くんが来てからずっと寒かったんじゃないだろうか。
世話になるとか、面倒見てとか言いながら、そういえば何も要求してこない。
「……どうして……」
そうっと布団を掛けて、実くんにふわりと落ちていく間に、思わず漏れてしまった。
一体、私のどこを気に入ってくれたんだろ。
そもそも、何でお願いされるまま、着いてきたのかな。
何度考えても、こんな若くてかっこよくて――優しい子が、そんな気になった理由を見つけられない。
「……それは、まだ言わない」
無意識に跪いて、寝顔を見ていた体が反射的に仰け反る。
「あの夜のこと、だよね。まだ、言わないでおく」
いつから起きてたのか、伸びてきた手に頬を固定される方が先だった。
「あの夜、可愛いかった。だから着いてったし、何なら本気でする気だった」
「う、嘘……」
「……じゃないよ。言ったじゃん。一華さんが酔い潰れたから未遂に終わっただけ。……ま、あの時はそれでも襲うほど、飢えてなかったけど」
可愛いなんて。
襲うなんて。
「……そ、そうだよね! 実くんは、そんな困ってるはず」
「け・ど。今は飢えてる。困ってる」
――ほんと、悪いおねーさん。
耳の輪郭をなぞるように触れられ、寄せられ。
寝ていた実くんの胸に倒れた私に、頭からすっぼりブランケットを被せた。
「忠告したよね。危ないよって。それで俺のとこ来てくれたんなら、もう我慢しない」
見えない。聞こえない。そんなの、大嘘。
「今は犯罪感しないでしょ。襲われんの、一華さんの方だもんね」
これ以上、身体を寝かせてはいけない。
辛うじて言い聞かせる指先が、実くんの胸で震える。
「いいよ。混乱して、答え出なくったって。どっちにしても、俺はもう引いてあげる気ないから。ねえ、一華さん」
どうにか踏ん張る私に笑って、私の頭から垂れたブランケットの両端をくいっと引っ張った。
「あっ……」
「早く落ちてきてよ。……したいこと、俺でいいかなって思えるくらい、堕ちておいで。それまで……」
バランスを崩す寸でのところで、再び両耳が捕まる。
「リスト1、リピートしてるから」
ヤバい、って。
ソファの僅かに残されたスペースじゃ、両手をついたってとても堪えきれなかった。
真下で、細くて綺麗な顎が上がるのがゆっくり見えて――唇を塞がれる。
ただし、今度は――言われたとおり延々、耳だけじゃなく、胸を叩く手すら撫でられて――崩して、落として、引きずり込もうとするのが分かるほど甘く、優しくないキスだった。