死ぬ前にしたい1のコト
・・・
「……そんなことがあったんだ」
ソファの上、普通にふたり座っている方が慣れなくてムズムズするなんて。
「ごめんね。俺、無神経なこと言った。一華さんが俺を誘うまで、何かしらあったんだとは思ってたんだけど」
「ううん」
実くんが言ったことはどれも事実で、正しい。
「でも、言い返したの偉いね」
少し空いた、微妙な身体と身体の距離。
困ったような喜ぶような、焦ったような。
そんな複雑な笑顔を浮かべて、よしよしと頭を撫でてくれてる。
「あいつ……ユウさんの為に頑張ったんだ。それって妬けるから……ね、来て。こっち、来て」
撫でる動きがゆっくりになって、使われるのが掌全体から、指先に変わっていって。
頭のてっぺんから、髪の毛一本一本――今にも弾みで肌に触れそうになるのに、息が止まりそうで。
「ん。やっぱ、いっか。だって俺は、今になって震えてる一華さん、こうやって抱きしめてられるから」
バッと立ち上がった私を、膝の間できゅっと抱いた。
「ねえ、一華さん。そうやって周り見すぎるの、やめなよ。噂広まって、今までキツかったと思う。騙されたの、トラウマになってるのも……あいつのおかげで、今何とか普通に笑えるようになったんだろうなってことも想像つくよ。でもね」
旋毛の辺りから後頭部、肩、背中。
髪を通して滑っていくのにゾクッとする、自分が怖くなる。
「いいじゃん。そんな下らない奴ら、好きに言わせとけば。そもそも自分に自信があるやつは、そんな嫌がらせもやっかみもしないと思うよ。その時点で、一華さんに魅力があるってこと」
「……そん……っ」
もう片方の指に、否定を打ち消される。
ゾクゾクしたのがバレたのか、反対側は背中のそこを解放してくれなくて。
反応をからかうよりも、ずっとずっと羞恥を煽る。
「それにさ。俺は、そんな一華さんが好き。慣れてなくて、全然頑張ることないのに一生懸命空回ってる一華さんが……大好き。それって一華さんにとって、少しも慰めにならないかな」
黒目がわざとらしく下から見上げてきて、離してくれない。
「びっくり? ……ん、俺も。こんなこと初めてで、正直どうしたらいいか分かんない。教えてよ、一華さん。俺、どうしたらいい? 」
熱い。
さっき触れられた瞼も、今包まれた頬も。
「どうしよう。俺、一華さんのこと、すごい好きすぎて……助けたいし、甘やかしたいし、俺が慰めて元気になってほしいとか思いながらそのくせ」
――弱いトコ全部、突きまくりたくなってる。